Inleiding tot de R-statistiek

統計学全般に関する備忘メモの書庫(三中信宏)

「統計学の「p値」をめぐるASA声明」

ことの発端はアメリ統計学会(ASA: The American Statistical Association)の声明だった:ASA Press Release | ASA Releases 'Statement on Statistical Significance and P-Values' [pdf] 7 March 2016.元論文:The American Statistician | The ASA's statement on p-values: context, process, and purpose. 7 March 2016 ※コメントが21個もくっついている~.これを受けて:Nature | News | Statisticians issue warning over misuse of P values. 7 March 2016 と燎原に火が広がる如し.日本語でも:東京で働くデータサイエンティストのブログ「「p値や有意性に拘り過ぎるな、p < 0.05かどうかが全てを決める時代はもう終わらせよう」というアメリカ統計学会の声明」(2016年3月9日)とかサイナビ!「再現性・再現可能性を議論する」(2016年3月8日)とか.

農学分野での統計データ解析に接する機会が比較的多いワタクシの目から見れば,「ゆーい差決戦主義」や「p値バンザイ突撃戦」への数々の批判をよそに,研究現場では文字通り “レガシー” な統計手法がいまなおまかり通っている.統計手法にも “賞味期限” があるはず.やっかいなことに,すでに古ぼけた統計手法が使われ続けることによって,その手法を生み出した古ぼけた思考や哲学もまたいつまでも延命されてしまう.統計学者の多くは「統計学の哲学」には関心がないので,検定・尤度・AICベイズ等の背後にある科学哲学に目を向けない.

これまでの統計研修や統計高座を通じてたびたび “タイムスリップ” に遭遇した経験があるワタクシしては,“レガシー” な統計分析手法を支える “レガシー” な統計思考法をユーザーに考えなおしてもらうよう導くしかないわけでして.大きな “慣性” をもつ思考法はすぐには断ち切れないだろうから,それに代わる別の思考法に乗り換えるよう,あるいは二股かけるよう周囲をそそのかすのがワタクシたちの使命なのだろう.そういうワルイことはとても楽しい.

研究現場の統計ユーザーにとって,広がり始めている “新しい統計学”(その正体はまだとらえどころがない)について知る機会がないだけのことが多いので,いったんその味を体験すれば次の一歩を踏み出す動機づけとなるだろう.その後押しをするのがワタクシたちのお仕事.ただし,過去からの研究系譜を伝承しなければならない現場のニーズを考えるなら,“レガシー” な統計手法もちゃんと知った上で,それとは別の(現代的な)統計的思考も身につけないと困ることになるだろう.複数のトラックの上を同時並走するイメージ.

教える側のワルダクミ戦略からいえば,「現代の統計学のスタート地点はもっと先なんだよ」と垂訓することはまったくの逆効果にしかならない.それは多くの統計ユーザーを統計学の勉強そのものから忌避させ遠ざけることになるだろうから.むしろ,そういう “北風戦略” とは対極的な「かつてはこう考えていたけれども,こんな風に見ればちがうことがわかるよね」という “太陽戦略” の方がはるかに浸透力があるとワタクシの経験は物語る.