Inleiding tot de R-statistiek

統計学全般に関する備忘メモの書庫(三中信宏)

「形態測定学の質問」

どーも,二月も終わりに近づきました.生物統計学の成績評価はすでに事務に提出してありますので,ご安心を.

さて,先月末の補講では「形態測定学」についての講義をしました.それに関する質問が二つ届いています.遅くなりましたが,回答です.

非常に興味深かったです.多様体についてはどのように学ぶべきものでしょうか?

そうですね.とくに,理科二類の場合,駒場ではロクに数学を勉強していない(失礼)学生さんが少なくないように見受けられるのですが,いまの生物学では基礎から応用にいたるまでさまざまな領域で数学が用いられています.多少消化不良になっても果敢に呑み込む覚悟が必要かもしれません.

「かたちの科学」に用いられる数学は,変換幾何学からリーマン多様体までの範囲のgeometryです.東大出版会からも数多くの「多様体」の本が出ているかと思いますが,数理統計学のあまたの本と同様に,抵抗力のない読者にとっては“致死的”であるおそれが大です.

たとえば,松本幸夫『多様体の基礎』(1988年9月25日刊行,東京大学出版会[基礎数学5],ISBN:4130621033)が,リーマン多様体の入門書として挙げられるでしょう(目次を見るだけで十分です).形状の線形変換に関する群論も必要になるでしょう.これについては,吉川圭司『群と表現』(1996年10月18日刊行,岩波書店[理工系の基礎数学9],ISBN:4000079794)が参考になるでしょう.さらに,ケンドール形状空間では位相幾何学トポロジー)が絡んできますから,小島定吉トポロジー入門』(1998年7月15日刊行,共立出版[共立講座・21世紀の数学7],ISBN:4320015592)のセル複体のコホモロジー理論も射程に入ります.以上は,私の手元にある本ですが,他にも適当な参考書はきっとあるでしょう.

このように,数学の深みに溺れるのはいつでもできるのですが,むしろ具体的に「生き物のかたち」の何を定量化したいのかという問題意識をまずもって,幾何学的形態測定学の最前線をまずは見てみるというのが生き残るすべではないかと私は思います.

ただし,基礎体力としての「数学力」はいつでも必要になりますので,本郷進学後も心して勉強して下さい.

次は,形態変形の直交分割に関する質問です:

歪1,歪2の分割がわかりません.

はい,標識点に関する形状間の仮想変形を薄板スプライン関数によって補間する際,“曲がり”の程度は「屈曲エネルギー行列」という実対称行列によって数値化されます.この行列を「固有値分解」することにより,全変形を各固有値に対応する直交成分(固有ベクトル)に分解するという手法が「部分歪み(partial warps)」のテクニックです.変形全体をまずはじめに「線形要素(アフィン変形)」と「非線形要素(非アフィン変形)」に分割し,後者の要素をさらに部分歪みによって直交分割することにより,局所的な変形の抽出するわけです.